日本人はビックリ!ベトナム人は「ありがとう」を言わない!?
—“言わない”のではなく、“言わなくても通じる”関係がある—
日本で暮らしていると私たちは一日に何度も「ありがとう」を口にします。
電車で席を譲られた、ドアを押さえてくれた、ちょっとした書類を回してくれた——。
礼を欠かさないのは日本の美徳でもあります。
一方でベトナムでは親しい間柄ほど「ありがとう(cảm ơn)」が目立って登場しないことが多い。
最初は私も戸惑いましたが、妻やその家族・友人と過ごすうちに腑に落ちました。
ポイントは「助け合いが“日常”である」という前提。
つまり改まって感謝を“言語化”しなくても、互いの善意は前提で共有されているのです。
なぜ言わないのか?背景にある3つの前提
1)助け合いが常識:相互扶助の文化
ベトナムでは家族・親族・近所・友人とのつながりが濃く、頼る/助けるが当たり前。
特別視しないからこそ毎度「ありがとう」を口にしない。
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「してもらったら、次は自分が返す」——言葉ではなく行為の往復で感謝が巡回します。
2)“外”と“内”で言語運用が変わる
ビジネス・接客などの公的場面では「cảm ơn」は普通に使われます。
逆に、“内”(家族・親友)ほど省略が増える。
日本の感覚とは逆転して見える点です。
3)“言う=それ以外は言っていない”に響くことも
親しい関係で毎回「ありがとう」を強調すると、「言った場面以外は感謝していないの?」と受け止められることも。
私も交際初期、妻のお弁当に改まって礼を言い、軽く驚かれました。
「彼氏にお弁当は当たり前だから感謝は要らないよ」と。
日本的「多頻度のありがとう」とのすれ違い
日本では“その都度の礼”が評価されやすい。
例:食事に招かれた時の「招待ありがとう」「美味しい、ありがとう」「今日はありがとう」……。
ベトナムだと同じ場面でも、終わりに一度言うか、そもそも言わないことも。
ここだけ切り取ると「不親切?」と誤解しがちですが、実態は逆。
好意は前提で共有済みだから過度な言語化は不要なのです。
じゃあ、まったく言わないの?——場面別のリアル
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家族・恋人・親友:言わない/軽く笑顔や仕草で伝える。代わりに次に相手を助けることで返す。
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近所・コミュニティ:言うこともあるが、カジュアルかつ簡潔。
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職場・接客・初対面:きちんと「cảm ơn」。ここでは日本と近い運用です。
要は、「距離が近いほど言葉が要らない」「距離が遠いほど言葉で整える」。
実践ヒント:気持ちを“伝え過ぎない礼儀”に合わせる
やってみると楽になるコツ
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行為で返す:手伝ってもらったら、後日こちらが自然にフォロー。
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場面で使い分け:仕事や初対面ではちゃんと言う。親密圏では笑顔・仕草・次の行動で。
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“義務の礼”を手放す:毎回言えない自分を責めない。関係が温まるほど、言葉は少なくても伝わります。
逆に避けたいこと
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“連打”のありがとう:親密圏での過多は、距離を作ることも。
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見返り前提の貸し借り:返すのは自然な循環。請求に変えると重たくなります。
使えるベトナム語フレーズ(必要な場面で)
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基本のありがとう:Cảm ơn.(カム・オン)
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とてもありがとう:Cảm ơn nhiều.(カム・オン・ニェウ)
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丁寧に:Xin cảm ơn.(スィン・カム・オン)
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相手に合わせて:Cảm ơn em/anh/chị/anh…(親しさ・相手の性別や年齢で人称が変わる文化に注意)
親しい間柄では、無理に多用しない方が関係になじみます。必要な場面で、短く、笑顔で。
ミニケース:日本側の“気まずさ”を減らす言い換え
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「ありがとう!」を毎回言う代わりに
→ 軽い相づち「うん、助かった」「いいね」、親指を立てる仕草、次回の手伝い宣言「今度は私がやるね」。 -
丁寧に伝えたい時だけ
→ 一言「Cảm ơn nhé.(ありがとうね)」程度で十分。
誤解しないための視点切り替え
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日本:助けを“特別扱い”し、言葉で都度可視化する。
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ベトナム:助けは“日常”で、言葉にせず循環する行為で可視化する。
違いは様式で、根っこは同じ“思いやり”。
どちらが上ではなく、文脈による最適解が違うだけです。
我が家の実例とバランスの取り方
私は日本的に感謝を言葉にするタイプ。
妻はベトナム的に行為で返すタイプ。
そこで互いの流儀を共有してすり合わせました。
結果、妻も日本の場面では言葉で伝えてくれるし、私も家庭では行為で返すことを増やしています。どちらか一方に寄せ切らない“折衷”が、いちばん平和です。
まとめ:言葉が減っても、温度は下がらない
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親しいほど「ありがとう」を言わないのは、感謝がないからではなく、感謝が前提だから。
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ビジネスや初対面では、言葉の礼をきちんと。
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親密圏では、行為で返し、過多な言語化を手放す。
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すれ違いは共有と調整でほどける。
これからベトナムの方と関わる人は、「ありがとう」の頻度よりも循環に目を向けてみてください。
言葉が少ない日でも関係の温度はちゃんと上がっていきます。

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